2025年、ついに悲願のマスターズ制覇を成し遂げ、キャリアグランドスラムを達成したローリー・マキロイ。その圧倒的な強さを支えたのは、技術の進化はもちろんですが、間違いなく彼の手にある14本のクラブとボールの最適な選択でした。
世界中のゴルファーが注目するドライバーの飛距離、アイアンの精度、そしてグリーン周りのウェッジワーク。これら全てを支えるギアのスペックには、私たちアマチュアゴルファーのスコアアップにも通じるヒントが隠されています。「自分にはハードすぎる」と敬遠せず、そのセッティングの意図を紐解いていくことで、ギア選びの新しい視点が見えてくるはずですよ。
- グランドスラムを支えた最新ドライバーとプロトタイプの実態
- なぜ5番ウッドに90g台の超ハードなシャフトを採用しているのか
- ウェッジのロフトを60度から61度に変更した戦略的な理由
- マキロイの正確無比な距離感を生み出す番手ごとの飛距離データ
2025年最新マキロイセッティングの全体像

ここでは、グランドスラム達成の原動力となったマキロイの14本のクラブを徹底解剖します。市販品とは一味違うプロトタイプの実態や、彼ならではのこだわりのスペックについて、深掘りしていきましょう。
進化するドライバーとプロトタイプ
2025年のマキロイを語る上で外せないのが、ドライバーの進化です。彼がマスターズを制した際に手にしていたのは『TaylorMade Qi10』でしたが、これはただのQi10ではありません。「ドット(Dot)ヘッド」と呼ばれる、ツアー支給品の中でもさらに特別なプロトタイプを使用しています。このヘッドは重心距離が短く設計されており、ヘッドの操作性が極めて高いのが特徴です。マキロイのような超高速スインガーにとって、市販モデルの「優しさ」は時にスピン過多や左へのミスに繋がりますが、このドットヘッドは低スピンで強弾道を生み出すための専用設計がなされています。
さらに注目すべきは、シーズン終盤のアブダビHSBC選手権で投入された次世代プロトタイプ『Qi4D』です。
ソールに4つのウェイトポートが確認されているこのモデルは、かつての名器『r7 quad』を彷彿とさせます。重心深度と重心距離を個別に微調整できるこの機能により、彼は平均334ヤードという驚異的なドライビングディスタンスと、フェアウェイキープ率80%という安定性を両立させました。
装着されているシャフトは『Fujikura Ventus Black 6 X』。もはやPGAツアーのスタンダードとも言えるベンタスブラックですが、マキロイの仕様は強烈です。先端を1インチ(約2.5cm)もチップカットしており、実質的な硬さは「TX」を遥かに超えています。これにより、インパクトでのヘッドの挙動を物理的にねじ伏せ、左へのミスを完全に排除しているのです。
役割が明確なフェアウェイウッド
私がマキロイのセッティングを見ていて最も「変態的(褒め言葉です)」だと感じるのが、フェアウェイウッド、特に5番ウッドのスペックです。3番ウッドはドライバーの流れを汲んだ『Ventus Black 8 X』を使用し、ティショットでの飛距離性能と操作性を両立させています。これも十分ハードですが、驚くべきは5番ウッドです。
なんと、5番ウッドには90g台のシャフト『Ventus Black 9 X』を装着しているのです。通常、ドライバーが60g台なら、FWは70g〜80g台がセオリー。90g台というのは、一般的なアイアン用カーボンシャフト並み、あるいは軽量スチールシャフトに匹敵する重さです。さらに、チップカットは驚異の2.0インチ。まるで鉄の棒のような硬さでしょう。
「世界最高の5番ウッド使い」と称されるマキロイの魔法は、この非常識とも言えるヘビーウェイトシャフトによって支えられているのです。私たちアマチュアが真似をするのは危険ですが、「飛ばす3W」と「狙う5W」でシャフトの重量帯を明確に変えるという考え方は、セッティングを組む上で非常に参考になります。
こだわりが詰まったアイアン
アイアンセットは、寛容性と操作性を極限まで追求したコンボセッティングになっています。ロングアイアン(3番、4番)には、中空構造の『TaylorMade P760』を採用。ミスヒットへの強さと、高さの出しやすさを優先しています。2018年モデルを未だに愛用している点からも、彼がいかにこのモデルを信頼しているかが分かりますね。
そして5番から9番は、マキロイ専用モデル『Rors Proto』です。これはマッスルバックの『P730』や『P7MB』をベースに、彼の好みに合わせてオフセットやトップラインの厚み、バウンス角が完全にカスタマイズされた、世界に一つのアイアンです。特筆すべきは、そのスペック設定にあります。
| 項目 | 設定内容 | 狙い |
|---|---|---|
| ライ角 | 1度フラット | 左への引っかけ(チーピン)防止と、インパクトでの抜けの良さを確保 |
| ロフト角 | 7番で34度 | 飛びすぎを防ぎ、縦距離の正確性とスピン量を確保(クラシックロフト) |
| 長さ | +1/4インチ | 遠心力を高めてヘッドスピードを稼ぐ |
特にライ角をフラットにしている点は重要です。ドローヒッターであるマキロイにとって、左へのミスは死活問題。物理的に左に行きにくいフラットなライ角にすることで、「つかまりすぎない」という安心感を得ているのです。最近のアイアンはアップライトなものが多いですが、フックに悩む方は一度ライ角を見直してみると良いかもしれません。
ハードなスペックのシャフト
アイアンに装着されているシャフトは『Project X 7.0 (Rifle)』です。これもまた、アマチュアには到底扱えない代物です。一般的なフレックス表記で言えば「XXX」クラスの硬さを誇ります。Project Xは「節」のないステップレスシャフトで、ダイレクトな打感と、スイング中の挙動の少なさが特徴です。
マキロイのスイングは、切り返しで強烈な負荷がかかります。このパワーを受け止めるには、7.0という剛性が必要不可欠なのです。もし彼が柔らかいシャフトを使えば、ヘッドが暴れてしまい、コントロール不能になるでしょう。逆に言えば、シャフトは自分のスイングスピードとテンポに合わせるものであり、単に「プロが使っているから」という理由で選ぶべきではないという良い教訓です。
細部に神が宿るグリップ
クラブと身体との唯一の接点であるグリップにも、マキロイの繊細なこだわりが見て取れます。使用しているのは『Golf Pride MCC (New Decade MultiCompound) White/Black』ですが、注目すべきはその中身です。
彼は「Ribbed(バックラインあり)」のグリップを使用しており、さらに下巻きテープを2重に巻いています。多くのプロゴルファーが、フェースを開閉しやすいバックライン無し(ラウンド)を好む中で、あえてバックラインありを選んでいるのは、常にフェースの向きを一定に握りたいという意識の表れでしょう。プレッシャーのかかる場面でも、指先の感覚だけでスクエアな位置を確認できるガイド役として機能させているのです。
下巻き2重による太さの調整も、手首の余計な動き(コネる動作)を抑制するためです。グリップは単なるゴムの塊ではなく、スイングを安定させるための重要なチューニングパーツであることを、彼のセッティングは教えてくれます。(出典:Golf Pride公式サイト)
マキロイセッティングから学ぶスコアアップ術

ここからは、マキロイのセッティングの中に隠された、私たちアマチュアでも真似できる「スコアアップのヒント」を探っていきます。単なる道具自慢ではなく、そこにある戦略的意図こそが重要なのです。
61度が鍵となるウェッジ構成
2025年シーズン、マキロイは長年愛用した『MG4』から最新の『TaylorMade MG5』へとウェッジを移行しました。そして、最も大きな変化がロブウェッジのロフト変更です。これまで60度だったロフトを、あえて「61度」に調整して使用しています。
たった1度の違いですが、これには明確な理由があります。それは「40ヤードから70ヤードの中途半端な距離」を攻略するためです。ツアープロにとって、フルショットできないこの距離感は非常に神経を使います。ロフトを寝かせることで、マキロイはこれまでよりも「速く振る」ことができるようになりました。
また、ロフトを寝かせることでバウンス角が実質的に増えるため、難しいライからのアプローチでもチャックリ(ダフリ)のミスが出にくくなるというメリットもあります。もしあなたがバンカーやロブショットで悩んでいるなら、60度ではなく58度を少し開いて使う、あるいは思い切ってハイロフトのウェッジを試してみるのも一つの手かもしれません。
安定感を生むスパイダーパター
グリーン上のパフォーマンスを支えているのは、『TaylorMade Spider Tour X3』です。数々のビッグタイトルを手にしてきた大型マレットパターですが、ここにも彼なりの工夫があります。ネック形状にはショートスラントを採用し、マレット特有の直進性を持ちながらも、イントゥインのストローク軌道に合わせてフェースの開閉がしやすい仕様になっています。
アライメント(照準)に関しては、市販モデルのような太い白い帯(True Path)ではなく、ヘッド全体を黒くした上で一本の長いサイトラインを入れた特別仕様を使用している可能性が高いです。これは、面で狙うよりも線でラインをイメージしたいという彼の感性を優先させた結果でしょう。パター選びにおいて、ヘッドの性能だけでなく「構えやすさ」「イメージの出しやすさ」がいかに重要かを物語っています。
TP5を選んだボールの秘密
2025年の快進撃を支えた隠れた立役者、それはゴルフボールの変更でした。マキロイは長年、硬めの打感と飛距離性能に優れた『TP5x』を使用していましたが、シーズン開幕前にマイケル・ジョーダン所有のプライベートコース「Grove XXIII」で行ったテストを経て、よりソフトな『TP5』へとスイッチしました。
一般的に、マキロイのようなハードヒッターは硬いボール(X系)を選ぶのがセオリーです。しかし、彼はあえて柔らかいボールを選びました。その理由は「ショートゲームのスピン性能」と「風への強さ」です。『TP5』はウレタンカバーが柔らかく、アプローチで低く打ち出して強烈なスピンをかけることができます。
さらに、アイアンショットでの打ち出し角がわずかに低くなることで、アゲインストの風にも負けない強い弾道を手に入れました。懸念されたドライバーの飛距離ロスも、彼のヘッドスピードがあればコアを十分に潰せるため、全く問題にならなかったのです。「ハードヒッター=硬いボール」という固定観念を捨て、実戦でのメリット(特にショートゲーム)を優先したこの決断こそが、グランドスラムへのラストピースだったのかもしれません。
番手ごとの正確な飛距離データ
最後に、マキロイの各番手のキャリー飛距離を見てみましょう。この数字の並びには、スコアメイクのための美しい「階段」が存在します。
| クラブ | ロフト角 | キャリー (Yards) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Driver | 9.0° (実質8.25°) | 320y+ | 圧倒的な飛距離 |
| 3 Wood | 15.0° | 295y | 第2のドライバー |
| 5 Wood | 18.0° | 275y | 高弾道で止める |
| 4 Iron | Proto | 240y | ここから15y刻み |
| 5 Iron | Proto | 225y | 正確無比 |
| 6 Iron | Proto | 210y | 正確無比 |
| 7 Iron | 34° | 195y | 正確無比 |
| 8 Iron | Proto | 180y | 正確無比 |
| 9 Iron | Proto | 165y | 正確無比 |
| PW | 46° | 150y | 正確無比 |
| GW | 50° | 136y | 約14y差 |
| SW | 54° | 125y | 約11y差 |
| LW | 61° | 105y | あえて20y空ける |
見ていただくと分かる通り、4番アイアンからPWまでは驚くほど正確に「15ヤード刻み」で構成されています。自分の持ち距離を完全に把握し、ギャップを作らないことがアイアンショットの基本です。
一方で、54度(125y)と61度(105y)の間には20ヤードの開きがあります。ここはあえて数値を詰め込まず、マキロイ自身の「感性(Touch)」で埋める領域として残しているのです。ウェッジを開いたり閉じたり、振り幅を変えたりすることで、機械的な数値以上の対応力を発揮するための「余白」と言えるでしょう。
マキロイセッティングの結論
ローリー・マキロイの2025年セッティングは、科学的なデータに基づく最適化(ドライバーやボール選び)と、本人の感性を活かすための調整(ウェッジのロフトやグリップ)が見事に融合したものでした。「マキロイセッティング」そのものを真似することは、そのハードなスペックゆえに困難ですが、彼がギアを選んだ「思考プロセス」は、私たちにも大いに役立ちます。
自分のスイングに合ったシャフト重量を見つけること、ショートゲームのミスを減らすためにボールやウェッジを見直すこと。これらを意識するだけで、あなたのゴルフは間違いなく次のレベルへと進化するはずです。




