こんにちは!19番ホール研究所のthe19thです。
最近、PGAツアーのプロのスイング解説などでよく耳にする「掌屈(しょうくつ)」という言葉。ダスティンジョンソン選手のようなトップでの独特な手首の形を見て、「あれを真似すれば飛距離が伸びるのかな?」「頑固なスライスが治るかも?」と気になっている方も多いんじゃないでしょうか。
その一方で、掌屈のやり方を試してみたら、なぜかシャンクが止まらなくなったり、逆に手首が痛いと感じたり…。「自分には合わないのかな」「そもそもやり方が間違っているのかも」と、掌屈ができないまま悩んでしまうケースも少なくないようです。実は、掌屈は現代のゴルフクラブの性能を最大限に引き出すための重要な動きですが、正しい知識なしに取り組むと逆効果になることもある、少しデリケートな技術なんですね。
この記事では、そんな「ゴルフの掌屈」について、その基本から具体的なドリル、そして多くの人が陥りがちな失敗の原因と対策まで、網羅的に掘り下げていきたいと思います。この記事を読み終える頃には、あなたに掌屈が必要かどうか、そしてどうやって安全にスイングに取り入れればいいかが、きっとクリアになっているはずです。
- 掌屈の基本とメリットがわかる
- あなたのグリップとの相性を見極められる
- シャンクなど失敗の原因と対策がわかる
- 正しい習得ドリルと練習法がわかる
現代ゴルフの掌屈とは?基本とメリット
まずは「掌屈ってそもそも何?」という基本の部分から見ていきましょう。言葉だけ聞くと難しそうですが、動き自体はシンプルです。ここでは、掌屈の基本的な動きと、なぜ現代ゴルフでこれほど注目されているのか、そのメリットや注意点を分かりやすく、そして少し深く解説していきますね。
掌屈と背屈の決定的な違い
ゴルフスイングにおける手首の動きを理解する上で、「掌屈(しょうくつ)」と「背屈(はいくつ)」の違いを知っておくことは、スイング改善の第一歩と言っても過言ではありません。この二つは正反対の動きで、クラブフェースの向きに直接的な影響を与えます。
まず、それぞれの動きを具体的に定義してみましょう。
- 掌屈 (Palmar Flexion): 手首を「手のひら側」に折る動きです。左手で言うと、手の甲が外側に反るような形になります。英語圏では”Bowed Wrist”(弓なりの手首)と呼ばれ、この動きをすると、クラブフェースは閉じる(シャットになる)方向に動きます。トップ・オブ・スイングでこの形を作ると、フェースは空を向くようになります。
- 背屈 (Dorsiflexion): 手首を「手の甲側」に折る動きです。左手で言うと、手の甲と腕が「く」の字になる形ですね。こちらは”Cupped Wrist”(カップ状の手首)と呼ばれ、この動きでは、クラブフェースは開く(オープンになる)方向に動きます。トップでこの形になると、フェースは正面やターゲット方向を向きます。
ちなみに、手首の動きにはもう2種類、「橈屈(とうくつ)」と「尺屈(しゃっくつ)」があります。橈屈は親指側に手首を曲げる動きで、いわゆる「コック」のこと。尺屈は小指側に曲げる動きで、「アンコック」やリリースに関わってきます。ゴルフスイングはこれら4つの動きが組み合わさった非常に複雑な運動なんですね。
なぜ昔は「背屈」が主流だったのか?
ゴルフのレッスン書を古くから読んでいる方だと、「トップでは左手首は背屈させるのが正しい」と教わった経験があるかもしれません。実際、ベン・ホーガンの有名な教本『モダン・ゴルフ』でも、トップで左手首はフラットかやや背屈(カップリスト)させると書かれています。
これは、当時のゴルフクラブの特性が大きく関係しています。かつてのパーシモン(柿の木)ヘッドや小ぶりなメタルヘッドのクラブは、重心距離が短く、操作性が非常に高かったんです。そのため、バックスイングでフェースを開き(背屈)、インパクトで手首を積極的に返す(リストターン)ことでフェースをスクエアに戻し、ボールを捕まえる打ち方が理にかなっていました。
現代クラブと「掌屈」の蜜月関係
しかし、現代のドライバーはヘッド体積が460ccと大型化し、チタンなどの素材によって慣性モーメント(MOI)が極限まで高められています。MOIが高いということは、芯を外してもヘッドがブレにくく、曲がりが少ないという大きなメリットがあります。その反面、一度開いたフェースを元に戻すのにも大きな力と時間が必要になる、という特性も持っています。
この大型ヘッドで昔ながらの「開いて閉じる」スイングを行うと、インパクトまでにフェースが戻りきらずに右へすっぽ抜ける「プッシュアウト」や、それを嫌って無理やり手で返そうとして「チーピン」が出る、という左右のミスに悩まされやすくなります。
そこで主流になったのが、「そもそもスイング中にフェースを開かない」という考え方。テークバックからトップにかけて掌屈の動きを入れることでフェースをシャットに保ち、ダウンスイングでは過度なリストターンを使わず、体の回転でシンプルに振り抜く。これが、現代のクラブの性能を最大限に引き出すための、合理的で再現性の高いスイングとして注目されているわけですね。
掌屈でスライス改善、飛距離アップの理由
「掌屈が良いのは分かったけど、具体的にどんな効果があるの?」という疑問にお答えします。掌屈を取り入れることのメリットは、主に「方向性の劇的な改善」と「飛距離の最大化」という、ゴルファーなら誰もが求める二大要素に集約されます。
フェースローテーションの抑制とDプレーン理論
アマチュアゴルファーの永遠の悩みとも言えるスライス。その原因のほとんどは、インパクトでフェースが開いて当たってしまうことにあります。なぜフェースが開くのかというと、バックスイングで開きすぎたフェースを、ダウンスイングで閉じきれていないからです。
掌屈は、この根本原因に直接アプローチします。トップで掌屈させてフェースをシャット(閉じた状態)にしておくことで、ダウンスイングで行うべき「フェースを閉じる」という仕事量を大幅に減らすことができるのです。あとは体の回転に集中すれば、クラブは自然とスクエアな状態でインパクトゾーンに戻ってきやすくなります。
現代の弾道理論である「Dプレーン理論」の観点からも、この動きは非常に合理的です。Dプレーン理論では、ボールの打ち出し方向はインパクト時の「フェースの向き」にほぼ支配され、ボールの曲がり(スピン軸の傾き)は「フェースの向き」と「クラブの軌道(パス)」の差によって決まります。つまり、インパクトでのフェース向きを安定させることが、球筋をコントロールする上で最も重要だということです。掌屈は、その再現性を高めるための極めて有効な手段と言えるでしょう。
ハンドファーストインパクトの物理的メリット
掌屈のもう一つの大きなメリットは、理想的な「ハンドファースト」のインパクトを自然に作り出せる点にあります。掌屈した手首の形をキープしたままダウンスイングすると、手元がクラブヘッドよりも先行した状態でボールを捉えやすくなるのです。
このハンドファーストインパクトには、飛距離を伸ばすための物理的な恩恵が詰まっています。
- ダイナミックロフトの減少: インパクト時のクラブのロフト角(ダイナミックロフト)が立つため、エネルギー伝達効率が向上します。これにより、ボール初速が上がり、飛距離アップに直結します。プロのような「低く強く飛び出して、途中からホップするような弾道」は、この効果によるものです。
- スピン量の最適化: ロフトが立つことで、バックスピン量が適正化されます。特にドライバーでは、スピンが多すぎるとボールが吹け上がって飛距離をロスしてしまいます。掌屈によるハンドファーストは、現代の低スピン系クラブ・ボールの性能を最大限に引き出し、ランの出る「飛ばせる弾道」を実現します。
- 入射角の安定: ハンドファーストでインパクトできると、クラブヘッドの最下点がボールの先(ターゲット寄り)になりやすくなります。これにより、アイアンではボールだけをクリーンに拾う「ダウンブロー」が、ドライバーでは最下点を過ぎてからアッパー軌道で捉える「アッパーブロー」が安定し、ダフリやトップといった縦距離のミスを大幅に減らすことができます。
このように、掌屈は単なる手首の形ではなく、方向性と飛距離というゴルフの根幹をなす要素を、物理的に向上させるための重要なテクニックなのです。
あなたのグリップとの相性診断
「よし、掌屈のメリットはよく分かった!早速練習しよう!」と意気込んでいるあなた、その前に一つだけ、絶対に確認しなければならないことがあります。それは、あなた自身のグリップと掌屈の相性です。これを無視して闇雲にトッププロの真似をすると、スイングを崩すどころか、ケガに繋がる危険性すらあります。
結論から言うと、掌屈の必要度合いは、グリップの握り方によって全く異なります。
下の表は、グリップタイプごとの特徴と、推奨される掌屈の度合いをまとめたものです。ご自身の左手の握り方と見比べて、どのタイプに当てはまるかを確認してみてください。
| グリップタイプ | 特徴(左手) | 掌屈の必要度 | 理由・メカニズム |
|---|---|---|---|
| ウィークグリップ | 上から見て拳のナックルが1つ、または見えない。親指と人差指で作るV字がアゴや左肩を指す。 | 必須 (★★★) | グリップ自体がフェースを開く方向に握っているため、意識的に掌屈を入れないとインパクトでフェースが開きやすい。スライスに悩む人に多い。 |
| スクエアグリップ | ナックルが2つ~2.5個見える。V字が右耳から右肩の間を指す。現代のプロの主流。 | 推奨 (★★☆) | ニュートラルな状態。トップで手首をフラット~軽い掌屈に保つことで、フェース面をスクエアに管理しやすく、安定したショットに繋がる。 |
| ストロンググリップ | ナックルが3つ以上見える。V字が右肩の外側を指す。別名フックグリップ。 | 要注意 (★☆☆) | グリップ自体がフェースを閉じる方向に作用している。意識的に掌屈を入れる必要はなく、むしろトップでフラットか、わずかに背屈するくらいで丁度良い場合が多い。 |
タイプ別・プロの事例
PGAツアーのトッププロを見ても、グリップと掌屈の関係性は明らかです。
- ウィークグリップ + 強い掌屈: ダスティン・ジョンソン、ジョン・ラーム、ベン・ホーガン(インパクト時)など。彼らはウィーク気味のグリップで握ることで腕のローテーションを使いやすくしつつ、トップでの強い掌屈でフェースの開きを抑え、強烈なボディターンでボールを飛ばします。
- スクエアグリップ + 軽い掌屈: コリン・モリカワ、タイガー・ウッズ、松山英樹など。多くのモダンなプレーヤーがこのタイプです。ニュートラルなグリップから、トップでフェースをシャットにしすぎず、オープンにしすぎず、絶妙なコントロールを実現しています。
- ストロンググリップ + フラットな手首: ブルックス・ケプカ、ザック・ジョンソンなど。彼らはストロンググリップでボールの捕まりを確保しているため、トップでは過度な掌屈は不要です。体の回転でクラブを振り抜くことに集中しています。
このように、「グリップ」と「トップでの手首の形」はセットで考える必要があります。あなたの今のグリップを変えずに掌屈だけを取り入れようとするのではなく、「理想のスイングのために、グリップと掌屈をどう組み合わせるか」という視点を持つことが、上達への最短ルートになるはずです。
正しいトップでのやり方とコツ
自分のグリップタイプと目指すべき掌屈の度合いがイメージできたら、いよいよ具体的な動きの習得です。掌屈は手首だけで無理やり作るものではなく、アドレスからトップ・オブ・スイングに至る一連の流れの中で自然に作り出されるのが理想です。ここでは、そのための正しい手順と意識すべきコツを、スイングのフェーズごとに分解して解説します。
アドレスとテークバック:全ての始まり
良い掌屈は、良い準備から生まれます。アドレスと始動の段階で、すでに勝負は始まっています。
アドレスでのポイント:
手首に余計な力が入っていると、スムーズな動きはできません。まずはグリップを軽く握り、手首をリラックスさせることが重要です。この時点で極端なハンドファーストに構える必要はありません。自然な腕のポジションを心がけましょう。
テークバックでの最重要注意点:
アマチュアゴルファーが最も陥りやすいエラーが、テークバックの初動で右手でクラブをインサイドに引き込み、同時に左手首を背屈させてしまう動きです。この「ローリング」と呼ばれる動きが入った瞬間、フェースは大きく開いてしまい、その後のスイングでそれを元に戻すのは至難の業です。
始動では、手先でクラブを操作するのではなく、肩と胸の回転でクラブを真っ直ぐ後ろに引く意識を持ちましょう。クラブが腰の高さ(ハーフウェイバック)に来た時、クラブのリーディングエッジが自分の前傾角度と同じくらいになるか、それより少し地面を向いている状態が理想です。この時点でフェースが空を向いているようだと、すでに開きすぎのサインです。
トップ・オブ・スイング:理想の形を作る
ここが掌屈のハイライトとなるポジションです。テークバックでフェースを開かずに上げてくれば、トップでの形作りはそれほど難しくありません。
左手首の形:
目指すのは、左手首が「真っ直ぐ(フラット)」か、「少し手のひら側に折れている(掌屈)」状態です。鏡やスマホの動画でチェックしながら、「左腕と左手の甲が一直線」または「手の甲が少し弓なりに反っている」形を探しましょう。ウィークグリップの方は、意識的に弓なりの形を作る必要があります。
フェースの向き:
正しい掌屈ができていれば、トップでのクラブフェースは自然と「真上(空)」を向きます。これが「シャットフェース」の状態です。スクエアグリップの方は、空と正面の間の「斜め45度」あたりが目安になります。スライスに悩んでいる方は、まずはフェースが完全に空を向く状態を目指すくらいが丁度良いかもしれません。
切り返し:「シャローイング」との連動
実は、掌屈は「シャローイング」という現代スイングのもう一つの重要な動きと密接に関係しています。シャローイングとは、切り返しでクラブのシャフトが背中側に倒れる動きのこと。
トップで作った掌屈の形をキープ、あるいは切り返しの瞬間に少しだけ強める(バイクのアクセルを逆回しするような動き)意識を持つと、クラブヘッドはその重みで自然と背中側に倒れ、インサイドからボールにアタックする理想的な軌道(シャローな軌道)に乗りやすくなります。この動きができると、ダウンスイングで「タメ」が生まれ、インパクトで慌てて手を返す必要がなくなるため、スイング全体の再現性が飛躍的に高まります。
なぜ掌屈でシャンクが出るのか?
理論を学び、意気揚々と掌屈スイングに取り組んだゴルファーが、最初に直面する最大の壁。それが、あの忌まわしき「シャンク」ではないでしょうか。「フェースを閉じているのに、なぜネックに当たるの?」と、頭がパニックになる気持ち、私も痛いほど分かります。しかし、安心してください。掌屈が原因で出るシャンクには、明確なメカニズムと対策が存在します。
原因1:手元の浮きと前傾姿勢の崩れ
最も多い原因がこれです。掌屈によってハンドファーストの意識が強くなるあまり、インパクトでボールを強く叩きにいこうとして、無意識に手元が体から離れてボール方向に突き出てしまうのです。これを「手元が浮く」と言います。手元がアドレス時よりも前に出れば、その分クラブのホーゼル(ネック部分)がボールに近づき、結果としてシャンクが発生します。
これは、ダウンスイングでお尻が前に出てしまう「アーリーエクステンション」という動きと連動していることが多いです。前傾姿勢が崩れ、体が起き上がってしまうことで、腕の通り道がなくなり、手元を前に出すしかなくなるのです。
対策:
アドレスで少し踵(かかと)寄りに重心をかけ、インパクトまでその重心位置と前傾角度をキープする意識が重要です。お尻を壁につけたまま素振りをするドリルは、このエラーを修正するのに非常に効果的です。
原因2:体の回転不足と腕の詰まり
掌屈スイングの生命線は、なんといっても「体の回転」です。フェースを閉じた状態でクラブを下ろしてくるため、体の回転が止まってしまうと、腕とクラブの行き場がなくなってしまいます。詰まってしまった腕は、体の右側で減速するか、あるいは外側に押し出されるしかありません。この「押し出される」動きがシャンクに直結します。
特に、ボールを当てたい意識が強いと、ダウンスイングで下半身のリードが止まり、腕だけで振りに行ってしまいがちです。これでは、せっかく作ったシャットフェースを活かすことができません。
対策:
インパクトで終わりと考えず、フィニッシュまで一気に体を回し切ることを意識しましょう。「右腰を後ろに引く」「左のお尻を後ろに回す」といった意識を持つと、体の回転がスムーズになり、腕が通るスペース(懐)を確保することができます。
原因3:過度なインサイドアウトと脳の誤作動
これは少し意外に思われるかもしれませんが、脳の補正機能が原因でシャンクが起こることもあります。掌屈によってフェースが閉じていることを脳が感知すると、「このまま振ったら左に飛んでしまう!」と無意識に判断し、クラブを極端にインサイドから下ろして右に打ち出そうとする補正動作が働くのです。
この過度なインサイドアウト軌道は、クラブヘッドが最もインサイドからボールに近づくため、少しでもタイミングがずれるとネック側からヒットしやすくなります。プッシュアウトとシャンクが交互に出る場合は、この原因を疑ってみると良いかもしれません。
対策:
まずは、掌屈してもボールは真っ直ぐ飛ぶ、と自分を信じることが大切です。練習では、ターゲットよりも少し左を向いて、そこに向かってストレートボールを打つくらいの意識で振ると、過度なインサイドアウト軌道が修正されやすくなりますよ。
掌屈ができない人の共通点とは
「理論は分かったし、ドリルも試している。でも、どうしても掌屈の形が作れない、あるいはしっくりこない…」そんな風に悩んでいる方もいるかもしれません。掌屈が上手くできない場合、その原因は単なる技術的な問題だけでなく、身体的な要因や、長年染み付いたスイングの癖に隠されていることが多いです。ここでは、そうした共通点と、それぞれの解決へのヒントを探っていきます。
身体的な要因:手首・前腕の可動域
まず考えられるのが、純粋に身体的な柔軟性の問題です。人によっては、手首や前腕の筋肉・腱が硬く、掌屈の動き自体がスムーズに行えない場合があります。
セルフチェック:
テーブルの上に手のひらを下にして置き、肘を固定したまま、手首だけを曲げて指先を自分の方に向けられますか?この時、前腕と手の甲の角度が90度近くまで曲がらない場合、少し手首周りが硬い可能性があります。ただし、これはあくまで目安であり、無理は絶対に禁物です。
解決へのヒント:
日々のストレッチが有効です。お風呂上がりなど、体が温まっている時に、手首をゆっくりと掌屈・背屈方向に曲げたり、前腕を回旋させたりするストレッチを習慣にすると、少しずつ可動域は広がっていく可能性があります。ただし、痛みを感じる場合はすぐに中止してください。
技術的な要因:手先主導のスイング
これが最も多くの人に当てはまる原因かもしれません。それは、「掌屈を手首だけの動きで無理やり作ろうとしている」という勘違いです。掌屈は、独立したパーツの動きではなく、スイング全体の連動の中で生まれる結果と捉えるのが正解です。
具体的には、テークバックで右肘がたたまれ、左腕が自然と内側に捻られる(回内する)動きと、胸郭がしっかりと右に回る(捻転する)動きが組み合わさることで、左手首は自然とフラットから掌屈のポジションに収まります。手先でこねくり回して形を作ろうとすると、他の部分との連動が失われ、ギクシャクした不自然なスイングになってしまいます。
解決へのヒント:
意識を「手首」から「体の大きな部分」に移してみましょう。例えば、「右肘を地面に向けるようにたたむ」「胸をターゲットに背中が見えるまで回す」といった意識でバックスイングをすると、結果的に手首が良い形になっている、という状態を目指すのが理想です。
メンタル的な要因:長年の「すくい打ち」の癖
長年ゴルフをやっている方に多いのが、ボールを高く上げたいという無意識の願望からくる「すくい打ち」の癖です。ボールの下にクラブヘッドを入れようとする意識が働くと、ダウンスイングからインパクトにかけて、手首を甲側に折る(背屈させる)動き、いわゆる「フリップ」という動作が起こります。
この動きは、掌屈とは真逆の動きです。いくらトップで掌屈の形を作っても、インパクトでフリップしてしまっては全く意味がありません。むしろ、閉じたフェースが急激に開閉するため、チーピンやプッシュスライスなど、さらに不安定な球筋になる危険性があります。
解決へのヒント:
ボールを「打つ」のではなく、「運ぶ」「押し込む」という感覚を持つことが大切です。「ボールの先のターフを取る」という意識でアイアンを打つ練習は、すくい打ちの矯正に非常に効果的。ボールの赤道より少し上を、レベルブローからダウンブローに叩くイメージを持つことで、自然とハンドファーストと掌屈の形がキープされたインパクトに近づいていきます。
実践!ゴルフの掌屈を習得するドリル
さて、ここからは理論編から実践編へ移ります。「百聞は一見に如かず」ですし、「百見は一打に如かず」ですよね。ここでは、掌屈を安全かつ効果的に身につけるための具体的なドリルや、練習する上での注意点などを紹介していきます。頭で理解したことを、体に覚えさせるためのステップです。
手首が痛い場合の注意点と対策
本格的なドリルの前に、他のどんな技術論よりも優先されるべき、最も大事なことをお伝えします。もし掌屈の練習中に手首、特に小指側に痛みや、クリック音、不安定な感じがあれば、それは体の危険信号です。迷わず、すぐに練習を中止してください。
TFCC損傷のリスクを理解する
手首の小指側には、TFCC(Triangular Fibrocartilage Complex:三角線維軟骨複合体)という、手首の骨と骨の間でクッションの役割を果たしている重要な軟骨組織があります。このTFCCは非常に繊細で、強い衝撃や繰り返しの負荷で損傷しやすい部位です。
ゴルフスイングにおいて、特に「掌屈」と小指側に手首を折る「尺屈」が同時に強制され、そこにインパクトの衝撃が加わると、TFCCに強い圧迫力がかかります。また、掌屈を意識するあまり鋭角にクラブを入れてしまい、強くダフった(Fat Shot)際にも、急激な減速Gが手首にかかり、損傷のリスクが高まります。
安全に練習するための予防策
深刻なケガを未然に防ぎ、安全に掌屈を習得するためには、以下の点を常に心に留めておいてください。
- 無理な可動域を強要しない: プロのような極端な掌屈をいきなり真似しようとしないでください。特に体の硬い人が無理をすると、一発でケガに繋がります。まずは「背屈させない(手首をフラットに保つ)」ことから始めるだけでも、スイングは大きく変わります。
- 段階的な練習を徹底する: いきなりドライバーをマン振りするのではなく、次のセクションで紹介するような小さなスイング、軽い力感から始め、徐々に可動域とスピードを上げていくことが鉄則です。
- 練習前後のケアを怠らない: 練習前には手首をゆっくり回すなどのウォーミングアップを、練習後にはもし少しでも熱感や違和感があれば、アイシング(15分程度冷やす)を行いましょう。手首用のサポーターを着用して、過度な動きを抑制するのも有効な予防策です。
ゴルフは生涯スポーツです。一時的な結果を求めて体を壊してしまっては元も子もありません。自分の体の声に耳を傾けながら、慎重に、そして賢く練習を進めていきましょう。
自宅でできる簡単ステップドリル
掌屈の正しい動きと感覚を体に染み込ませるには、ボールを打つ練習場の時間だけでなく、自宅での地道な反復練習が非常に効果的です。ここでは、私が実際に試してみて効果が高かった、クラブ1本あればできる3ステップのドリルを紹介します。いきなりフルスイングで試すのではなく、このステップを順番に踏むことで、安全かつ確実に動きをマスターしていきましょう。
Step 1: ハーフスイング・ドリル(腰 to 腰)
このドリルの目的は、手先の余計な動きを完全に排除し、「体の回転だけでボールを運ぶ」という掌屈スイングの基本中の基本を体感することです。
- まずはショートアイアン(9番やPW)を持ち、通常より少し狭いスタンスで構えます。
- アドレスの段階で、あらかじめ左手首をフラットか、わずかに掌屈させた形を作っておきます。
- この手首の角度を「絶対にキープする」と意識しながら、おへそを回すイメージでバックスイングします。振り幅はクラブが地面と平行になる、腰の高さまでです。コックは使いません。
- ダウンスイングも同様に、体の回転だけでクラブを下ろしてきます。インパクトで手首をこねたり、返したりする動きは一切不要です。
- フィニッシュも腰の高さで止め、その時に左手の甲が地面を向き、クラブフェースがターゲットラインと平行か、少し閉じていることを確認します。
最初はボールを置かずに素振りから始め、慣れてきたら実際にボールを軽く打ってみましょう。低い球筋で、真っ直ぐか軽いドローが出れば成功です。この小さな動きの中に、掌屈スイングのエッセンスが全て詰まっています。
Step 2: スリークォーター・ドリル(肩 to 肩)
ハーフスイングで体の回転と腕の一体感が掴めたら、少し振り幅を大きくして、トップでの形を意識する練習に移ります。
- 振り幅を肩の高さまで大きくします。テークバックでは、ハーフスイングの動きを延長させるように、体の捻転を使ってクラブを上げていきます。
- トップに収まったら、一度動きを止めて、左手首がフラットか掌屈になっているか、クラブフェースが空を向いているかを、自分の目で直接、あるいは鏡やガラスに映して確認します。この「形を確認する」作業が非常に重要です。
- 切り返しで一瞬「間」を作り、トップで作った良い形をキープしたまま、下半身のリード(左足への踏み込み)でダウンスイングを開始します。
- インパクトで無理にボールを叩きに行かず、体の回転でスムーズにフィニッシュまで振り抜きます。
このドリルは、正しいトップの形を体に記憶させ、それを崩さずに下ろしてくる感覚を養うのが目的です。スマホで自分のスイングを撮影し、プロの動きと比較してみるのも非常に効果的ですよ。
Step 3: スプリットハンド・ドリル
これは、ハンドファーストのインパクトと、インパクトゾーンでのフェースの安定感をさらに強固にするための、少し特殊なドリルです。
- 左右の手をげんこつ一つ分ほど離してグリップします(右手はグリップの下の方、シャフトに近い部分を持つ)。
- この状態で、まずはハーフスイングの要領でゆっくりとスイングします。
手を離して握ることで、インパクトで右手が左手を追い越してしまう「フリップ」という悪い動きが、物理的に極めて起こりにくくなります。自然と左手がリードし、手元がヘッドより先行した形でボールを捉えるしかなくなります。これにより、ボールを潰すように押し込む、プロのような「分厚いインパクト」の感覚を安全に養うことができます。慣れてきたら、少しずつ振り幅を大きくしてみましょう。
おすすめの掌屈練習器具3選
正しい動きを効率的に体に覚えさせるためには、時に文明の利器、つまり練習器具の助けを借りるのも賢い選択です。「ゴルフ 掌屈 練習器具」で検索すると様々な商品が出てきますが、ここでは数ある器具の中から、特にコンセプトが明確で、多くのゴルファーから高い評価を得ているものを3つ厳選して紹介します。それぞれの特徴を理解し、自分の課題に合ったものを選んでみてください。
1. The Hanger (ザ・ハンガー):視覚と触覚で矯正する
これは、グリップ部分に装着するプラスチック製のハンガーのような形をした器具です。非常にシンプルな構造ですが、その効果は絶大です。
- 機能: 正しいスイングプレーンと手首の角度をガイドします。アドレス時、トップ、そしてインパクトで、このハンガー部分が常に左前腕に軽く接触していれば、手首が正しい角度(フラットまたは掌屈)を保てており、かつクラブが正しいプレーン上にある証拠となります。
- メリット: 手首が背屈したり、クラブがプレーンから外れたりすると、すぐにハンガーが腕から離れるため、エラーを即座に体感できます。視覚と触覚の両方でフィードバックが得られるため、「何が正しくて、何が間違っているのか」が非常に分かりやすいのが最大の利点です。
- おすすめな人: スイング中にフェース面がどこを向いているか分からなくなる人、手首をこねる癖が抜けない人。
2. Pro SENDR (プロセンダー):理想の形を強制的に作る
PGAツアープロの松山英樹選手やザンダー・シャウフェレ選手が使用していたことで一躍有名になった、手首に装着するタイプの本格的な練習器具です。
- 機能: 右手首の背屈と左手首の掌屈をサポートする半球状のパーツが特徴で、これを装着してスイングすることで、理想的なトップ・オブ・スイングの形を強制的に作ることができます。
- メリット: 自分の意志とは関係なく、正しい手首の形を体験できるため、短期間で脳と体に理想の動きを刷り込むことができます。特に、長年の癖でどうしても正しい形が作れない、という人にとっては画期的なツールになり得ます。
- おすすめな人: 本気でスイング改造に取り組みたい中~上級者、正しいトップの形がどうしても分からない人。
3. リストブレース・サポーター:手軽にエラーを防ぐ
もっと手軽に、そして安価に試したいという方には、医療用としても使われるリストブレース(手首用サポーター)が有効です。特に、手の甲側に硬いプレートが入っているタイプを選びましょう。
- 機能: 手首が甲側に折れる(背屈する)動きを物理的に制限します。
- メリット: とにかく手軽で安価なのが魅力。トップで左手首が折れてしまう「カップリスト」の癖がある人がこれを装着して練習すると、そのエラーを強制的に防ぐことができます。ケガの予防や、痛みが少しある時のサポートとしても機能します。
- おすすめな人: トップで手首が折れてしまう癖を直したい初心者、手首に少し不安がある人。
ダスティンジョンソンに学ぶ動き
「掌屈」というキーワードをゴルフ界に広く知らしめた最大の功労者は、間違いなくダスティン・ジョンソン(DJ)でしょう。彼のトップ・オブ・スイングで見せる、左手首が極端なまでに折れ曲がった特徴的な形は、初めて見た時に多くのゴルファーに衝撃を与えました。しかし、あの動きは単なる奇抜なフォームではなく、彼のパワーと精度を両立させるための、極めて合理的なメカニズムに基づいています。
なぜDJはあれほどまでに掌屈するのか?
DJのスイングを理解する鍵は、彼のグリップと身体能力にあります。彼は比較的ウィークなグリップで握っています。前述の通り、ウィークグリップは構造的にフェースが開きやすいという特性がありますが、彼はそれを補って余りあるほど、トップで強烈に手首を掌屈させています。これにより、テークバックでフェースが開く要素を完全に排除し、トップではフェースが完全に空を向くほどの「超シャットフェース」の状態を作り出しているのです。
なぜこれが彼にとって有効なのか。それは、彼の並外れた身体能力、特に強靭な体幹と圧倒的な体の回転スピードがあるからです。彼は、トップで作った閉じたフェースを、ダウンスイングで一切開くことなく、その形のまま猛烈なスピードのボディターンでインパクトまで運んできます。手首を返す、フェースを閉じるといった細かな操作を一切行わず、ただ体を回すことだけに集中できる。これが、彼のスイングの再現性の高さと安定したパワーの源泉となっているのです。
パワーフェードのメカニズム
DJの持ち球は「パワーフェード」です。一般的にフェードボールはスライス回転のボールですが、なぜフェースをシャットにしている彼がフェードを打てるのでしょうか?
これもDプレーン理論で説明がつきます。彼は、極端なシャットフェース(=インパクトのフェース向きはターゲットより左を向く)を作りながら、クラブの軌道(パス)をさらにその左に振り抜く(アウトサイドイン軌道)ことで、コントロールされたフェードボールを生み出しています。
つまり、
「左へのミスはフェースを閉じることで物理的に消し、あとは思い切り左に振り抜くだけ」
という、非常にシンプルな考え方です。これにより、彼はプレッシャーのかかる場面でも、安心して体をターンさせることができ、「飛ばして曲がらない」という現代ゴルフの理想形を体現しているわけです。
アマチュアが学ぶべき本質
では、私たちアマチュアゴルファーがDJのスイングから学ぶべきことは何でしょうか?
私たちが本当に学ぶべきは、その形ではなく、彼のスイングを成り立たせている「思想」の部分です。それは、「スイング中のフェースの開閉を極力減らし、手先の細かな操作に頼らず、体の大きな筋肉(ボディターン)を使ってシンプルにスイングする」という現代スイングのコンセプトそのものです。DJほど極端でなくとも、コリン・モリカワやジョン・ラームのように、自分に合った度合いの掌屈を取り入れ、フェース管理を楽にすることで、あなたのゴルフもよりシンプルでパワフルなものになる可能性を秘めています。
総まとめ:自分に合うゴルフの掌屈
さて、今回は現代ゴルフのキートレンドである「ゴルフの掌屈」について、その基本理論から実践的なドリル、そして潜在的なリスクまで、かなり深く掘り下げてきました。情報量が多かったので、最後にこの記事の最も重要なポイントを整理し、あなたがこれからどうアクションを起こすべきかの指針を示したいと思います。
まず、一番大切なので何度も繰り返しますが、掌屈は全てのゴルファーにとっての万能薬ではありません。それは、あなたのスイングを劇的に改善する可能性を秘めた強力な「ツール」ですが、使い方を間違えれば、スイングを壊しかねない「諸刃の剣」にもなり得ます。
あなたが掌屈に取り組むべきか、その最終判断
この記事を全て読んだ上で、あなたが掌屈にチャレンジすべきかどうかを判断する材料を以下に示します。
【積極的に取り組むべきゴルファー】
- 長年、アウトサイドイン軌道とインパクトでのフェースの開きによるスライスに悩んでいる。
- グリップがウィークグリップ、またはスクエアグリップである。
- 飛距離が出ず、ボールが吹け上がってしまいがち。
- もっとシンプルで再現性の高いスイングを目指したい。
【慎重になるべき、または不要なゴルファー】
- すでにストロンググリップで握っており、球筋はドローか、時にフックに悩んでいる。
- 現状のスイングに満足しており、安定したスコアが出せている。
- 手首に過去の怪我や痛み、違和感がある。
上達へのロードマップ
もしあなたが「自分には掌屈が必要だ」と判断したなら、焦らず、以下のステップで着実に進めていくことをお勧めします。
- グリップの再確認・調整: まずは自分のグリップを見直し、必要であれば少しニュートラルなスクエアグリップに近づけることから始めます。
- 小さなスイングでの感覚作り: 自宅での素振りや練習場で、記事で紹介したハーフスイング・ドリルからスタートし、手先を使わずに体の回転で打つ感覚を徹底的に体に染み込ませます。
- 徐々にフルスイングへ: スリークォーター、そしてフルスイングへと、少しずつ振り幅を大きくしていきます。各段階でスマホ撮影などを活用し、トップでの手首の形をチェックする癖をつけましょう。
- エラーが出たら基本に戻る: 練習中にシャンクやチーピンが出始めたら、それは何かが間違っているサインです。パニックにならず、一度ハーフスイングに戻って、体の回転や前傾姿勢といった基本を再確認しましょう。
流行りの理論にただ流されるのではなく、その本質を正しく理解し、自分の体やスイングと対話しながら、最適な動きを見つけていく。その試行錯誤のプロセスこそが、ゴルフの本当の楽しさであり、上達への確かな道筋だと私は信じています。
この記事が、あなたのゴルフの掌屈に関する深い理解に繋がり、次のレベルへとステップアップするための、信頼できるガイドとなれば、これほど嬉しいことはありません。ぜひ、明日からの練習に活かしてみてくださいね!



