ツアーAD PTが合う人と検索しているあなたは、きっとこの伝説的なシャフトが気になって仕方がないはずです。発売から15年以上経ってもカタログ落ちせず、多くのトッププロや上級アマチュアに愛され続けるなんて、移り変わりの激しいゴルフギア業界では異例中の異例。一体何がそんなに凄いのでしょうか。
私自身、飛距離を求めて最新の「走り系」や、安定を求めて「元調子系」など、数え切れないほどのリシャフトを繰り返してきました。しかし、調子を崩してスイングが分からなくなった時や、ふと「基本」に戻りたいと思った時、必ず手元に戻ってくるのがこのPTなのです。
最新のシャフトと比べて何が違うのか、そして本当にあなたに合うのか。スペック表の数字だけでは決して見えてこない、実際の振り心地や相性を、19番ホール研究所の運営者である私が、マニアックな視点で徹底的に掘り下げていきます。
- 振動数データと実際の振り心地にある意外なギャップの正体
- 松山英樹プロ愛用のDIや最新ベンタスとPTの決定的な違い
- ドライバーだけでなくフェアウェイウッドで神がかる理由
- スライサーやヘッドスピード不足の人が選ぶ際のリスク
振動数から見るツアーAD PTが合う人の特徴

ここでは、カタログスペックだけでは読み取れないツアーAD PTの物理的な特性を深掘りします。なぜ数値上は「硬い」と出るのに、実際に振ると「素直でしなやか」に感じるのか。そのメカニズムを物理的な視点から解明することで、あなたのスイングタイプとの相性が浮き彫りになってくるはずです。
ツアーAD PTの評価と特徴を徹底分析
まず、ツアーAD PTがなぜこれほどまでに長く愛され続けているのか、その根本的な特徴について整理しておきましょう。PTはよく「基準」や「ベンチマーク」と称されますが、これは単にグラファイトデザイン社の製品マトリックス図で中心(ニュートラル)に位置しているから、という表面的な理由だけではありません。
実際にコースで打ってみると痛感しますが、PTの最大の武器はその「徹底的な癖のなさ」にあります。これは、スイングのエネルギーやプレーヤーの意思を、過不足なく、歪曲することなくヘッドに伝える能力がズバ抜けていることを意味します。近年のシャフトは、飛距離性能を伸ばすために「中間を剛性を高めて先端を走らせる」といった明確な性格付けがなされていることが多いですが、PTはそのような極端な味付けを一切排除しています。
メーカーの公式説明や一部の試打レビューでは「先端剛性を抑え気味」「つかまりが良い」といった表現が見られます。しかし、これを「先端がフニャフニャで柔らかく、勝手にヘッドが走って暴れる」と解釈するのは大きな間違いです。むしろ逆で、インパクト付近での急激なトウダウン(ヘッドの重みでシャフトが垂れる現象)や、意図しない逆しなりといった「余計な動き」を絶妙なバランスで抑制してくれるため、スイングレベルが高い上級者ほど「先端がしっかりしていて頼れる」と感じる、非常に不思議なシャフトなのです。
また、現代のドライバーヘッドは大型化し、慣性モーメント(MOI)が極大化しています。一見、設計の古いPTはこれら最新ヘッドに合わないように思えますが、実はシャフト全体が綺麗にたわむことで衝撃を分散吸収するため、特定の部分に負荷が集中せず、振り心地を損なわないという意外な適性の高さも見せています。「最新ヘッドにリシャフトするなら、まずはPTで基準を作れ」と言われる所以はここにあります。
振動数データと体感硬度の違い
シャフト選びにおいて、多くのゴルファーが陥りやすい最大の罠が、振動数(CPM)という「数値」だけを見て硬さを判断してしまうことです。ここに、PTというシャフトを理解する最大の鍵があります。実は、PTの振動数は、一般的な感覚や他社の同フレックス帯と比較すると、かなり高めに出る傾向があるのです。
| モデル | フレックス | 振動数 (45inch換算) | ユーザー体感 |
|---|---|---|---|
| Tour AD PT-6 | S | 約264 cpm | しなやか、柔らかく感じる |
| Ventus Blue 6 | S | 約260 cpm | 硬い、張りがある |
| 一般的なカスタム | S | 255〜260 cpm | 標準的 |
このデータを見て驚きませんか? PT-6Sの「264cpm」という数値は、一般的なアフターマーケット用シャフトで言えば、半フレックス上の「SX」や「X」に相当する硬さです。しかし、実際に両者を打ち比べてみると、数値が低い(はずの)ベンタスブルーの方が圧倒的に「硬い棒」のように感じられ、数値が高い(はずの)PTは「全体がムチのようにしなる」と感じる人が大半です。
このパラドックスは、PTが「張り(Tension)」よりも「粘り(Viscosity)」を重視した設計思想で作られていることに起因します。振動数はあくまで「変形してから元に戻るスピード」を計測した数値であり、シャフトがスイング中にどれだけ変形するか(たわみ量)とは必ずしも一致しません。
PTは、切り返しで負荷をかけた際にはスムーズに大きくたわみ(Loading)、インパクトに向けては鋭すぎない、人間が制御可能な速度で復元します。この挙動が、数値上の硬さを微塵も感じさせない「タイミングの取りやすさ」を生んでいるのです。もしあなたが、自分のスイングテンポやリズムをデータとして可視化し、客観的に把握したいと考えているなら、最新のテクノロジーを活用するのも一つの手です。自分のリズムを知ることは、シャフト選びの第一歩ですから。
参考記事:アップルウォッチゴルフ完全攻略!おすすめアプリと設定術
ツアーAD DIとの比較と選び方
「ツアーAD PT 合う人」を探している熱心なゴルファーなら、必ず比較対象として頭に浮かぶのが、松山英樹プロの使用で世界的な名声を獲得した「Tour AD DI(Deep Impact)」でしょう。同じグラファイトデザイン社のオレンジカラーを纏ったこの2本は、しばしば兄弟のように語られますが、その内実は似て非なるものです。
DIの最大の特徴は、なんといってもその「先端剛性の高さ」にあります。インパクトでボールを厚く押し込む感覚が強く、どんなに叩いても左に行きにくい「強弾道」を生み出します。対してPTは、DIよりも先端の動きにわずかな「遊び」があり、ボールをフェースに乗せて「運ぶ」感覚が強くなります。
私自身の試打経験でお話しすると、DIは「自分が主体的に叩きに行っても左に来ない絶大な安心感」がある一方で、ある程度のパワーとヘッドスピード(目安として45m/s以上)がないと、しなりを感じられず、ただの重くて硬い棒に感じてしまうシビアさがあります。無理をしてDIを使うと、右へのプッシュアウトが止まらなくなることも。
実際、プロの世界でも「調子が良い時はDI、少し楽をして安定させたい時はPT」という風に使い分けている選手も存在します。それほどまでに、この2本は相互補完的な関係にあるのです。
ベンタスなど他社モデルとの比較

現代の市場標準(デファクトスタンダード)となっている「Fujikura Ventus(ベンタス)」シリーズ、特に「Ventus Blue」とも比較してみましょう。Ventus Blueも中調子に分類されるため、PTと競合するように見えますが、そのフィーリングは完全に対極に位置します。
Ventusは「Velocore(ベロコア)」テクノロジーによる先端剛性の高さが際立っており、全体的にねじれ(トルク)が少なく、極めてシャープでソリッドな挙動を示します。例えるなら、Ventusは「高精度の硬い板」であり、スイング中のフェース面の向きを物理的に固定しようとします。そのため、PTユーザーからすると、Ventusは「遊びがなさすぎてシビア」「ミスがダイレクトに手に伝わりすぎる」と感じるかもしれません。
逆に言えば、PTは「適度な遊びとねじれ」があるおかげで、スイングの微細なズレやタイミングの狂いをシャフトが吸収し、許容してくれる「懐の深さ」があります。オートマチックに真っ直ぐ飛ばしたいならVentus、ボールをコントロールして操りたいならPTという住み分けになります。
また、三菱ケミカルの「Diamana(ディアマナ)」シリーズ、特に青マナ系(TB, GT, WB等)と比較すると、三菱系は伝統的に「弾き感(反発力)」が強く、グラファイトデザイン(特にPT)は「粘り感(追従性)」が強い傾向にあります。もしあなたが、アイアンに「Dynamic Gold」のような重くて粘るスチールシャフトを入れているなら、弾き系のシャフトよりもPTのような粘り系の方が、スイングイメージを変えずに違和感なく移行できるはずです。
(出典:グラファイトデザイン『Tour AD PT 製品情報』)
ハイモジュラスと通常版の違い
ツアーAD PTには、過去に数量限定で生産された「High Modulus(ハイモジュラス)」という特別モデルが存在します。中古市場で見つけて「高いから良いものに違いない」と飛びつこうとしているなら、少し冷静になってください。これは通常版とは完全に「別物」と考えた方が安全です。
ハイモジュラスは、その名の通り80t高弾性カーボンや東レT1100Gといった超高級素材を全長にふんだんに使用しています。これにより、低トルク化と高剛性化が図られており、通常版PTにあるあの独特の「まったりとした粘り感」は影を潜め、非常にピーキーでレスポンスの速い、硬質なシャフトに変貌しています。
ターゲットはずばり、「通常版PTの動きは大好きだが、ヘッドスピードが50m/sを超えてくるとスピンが増えすぎてしまうため、あと200回転だけスピンを減らしたい」というような、ピンポイントな要望を持つ超上級者やプロフェッショナルです。
悩み別診断でわかるツアーAD PTが合う人

ここからは、具体的なゴルファーの悩みやスイングタイプに合わせて、PTが本当にあなたの救世主となるのか、それとも傷口を広げる逆効果になるのかを診断していきます。自分がどのタイプに当てはまるか、リアルなシチュエーションを想像しながら読み進めてください。
ヘッドスピード不足によるドロップ
PTのあまり語られない、しかし非常に重要な特徴として、強烈な「低スピン性能」が挙げられます。これはハードヒッターにとっては吹け上がりを抑える最高の武器になりますが、パワーに自信のないゴルファーにとっては諸刃の剣となります。
もしあなたのヘッドスピードがドライバーで40m/s未満で、かつ普段からボールが上がりきらない(キャリーが出ない)ことに悩んでいるなら、PTの導入は慎重になるべきです。PTを使ってバックスピン量が減りすぎると、ボールが最高到達点に行く前にお辞儀をして落下してしまう「ドロップ現象」が起き、キャリーが激減して飛距離を大きくロスする恐れがあります。
カタログ等でPTは「高弾道」と説明されることもありますが、それはあくまで「ある程度のパワー(HS42m/s以上推奨)があり、シャフトをしっかりとしならせることができる人が打った場合」の話です。最近の「先中調子」のシャフトのように、勝手にヘッドが下に入り込んでボールを拾い上げてくれるような「お助け機能」は、PTにはそこまで強く備わっていません。
もしあなたがHS40m/s前後で、もっと楽にボールを上げて飛距離を稼ぎたいと考えているなら、無理にPTを選ぶよりも、現代のテクノロジーが詰まった「軽硬」や「先調子」のモデルを選ぶ方が幸せになれるかもしれません。
参考記事:ヘッドスピード40で飛ぶ中古ドライバー厳選!名器選びの極意
スライサーにPTは推奨できない理由
「スライスを直したいから、捕まりが良いと評判のPTを使いたい」と考えているなら、一度立ち止まって深呼吸してください。PTは確かに「捕まりが良い」と評されることが多いですが、それは「インサイドから正しくスイングすれば、素直にフェースが戻ってきて捕まる」という意味での捕まりの良さであり、スライサーを助けてくれる機能ではありません。
アウトサイドインのカット軌道でスライスしている人がPTを使うとどうなるか。シャフトが余計な補正(先端の急速な走り)をしてくれないため、あなたのスライス軌道はそのまま忠実にヘッドに伝わり、スライスはスライスのまま出力されます。さらに悪いことに、PTの持つ低スピン効果によって、バックスピンで浮力を得られず、サイドスピンの影響が強く出てしまい、スライス幅が逆に大きくなる(右に滑って落ちる)現象さえ起こり得ます。
スライサーを救済するのは、もっと明確にインパクトで先端が走ってフェースを閉じてくれる「Tour AD CQ」や、他社の「先調子系(走り系)」モデルの役割です。PTはあくまで「あるがまま」を映す鏡。スイングを矯正する覚悟があるなら止めませんが、道具で即座に結果を変えたいなら他の選択肢を探すべきです。
フェアウェイウッド専用としての適性

実は、ドライバー以上に「神シャフト」「不朽の名器」としてマニアの間で崇められているのが、フェアウェイウッド(FW)への投入です。私の周りのギアにうるさいシングルプレーヤーたちも、ドライバーは最新のベンタスやテンセイに変えても、3W(スプーン)や5W(クリーク)には、塗装が剥げるほど使い込んだPTを頑なに挿し続けている人が何人もいます。
その理由は、PTの持つ「地面にあるボールを拾う動き」の秀逸さにあります。ティーアップしたボールとは異なり、地面からのショットはシビアな入射角が求められます。ガチガチに硬いシャフトではトップしやすく、逆に柔らかすぎるシャフトではダフりやすい。
PTは、この中間の絶妙なバランスを保っており、適度な先端のしなりがインパクトでわずかにヘッドを持ち上げる挙動をしてくれるため、入射角が安定し、薄い当たりでもボールを綺麗にコンタクト(拾う)させてくれるのです。特に、ドライバーで60g台のシャフトを使っている人が、FWに「PT-7(70g台)」を入れる重量フローのセッティングは、もはや鉄板中の鉄板。適度な重さが手打ちを防ぎ、驚くほど安定したセカンドショットを実現してくれます。「FWが苦手だ」という人こそ、最新モデルではなく、中古ショップでPTが入ったFWを探してみる価値があります。
チップカットで変わる挙動と効果
最後に、PTをさらに自分好みに味付けする、上級者向けの裏技「チップカット(先端カット)」について解説します。PTは設計のバランスが非常に良いため、先端を0.5インチから1.0インチ程度カットしても、シャフトの特性が崩れにくいという稀有な特性を持っています。
「PTの素直な挙動は大好きだけど、最近の大型ヘッドだと少し当たり負けする気がする」「捕まりすぎをもう少しだけ抑えたい」という場合、このチップカットが劇的な効果を発揮します。先端をカットすることで振動数が上がり、全体的に「シャキッ」としたタイトなフィーリングに変化します。
FWに入れる際は、もともと0.5〜1.0インチ程度のチップカットを行うのが一般的ですが、ドライバーでもあえて半インチ程度のチップカットを行うことで、現代の高慣性モーメントヘッドとのマッチングを最適化しているプロや上級者も少なくありません。
ちなみに、PTと相性の良いヘッドとしては、重心深度が深すぎず、ある程度の操作性を残したモデルが挙げられます。例えばキャロウェイの「トリプルダイヤモンド」系などは、PTの持つ操作性を殺さずに活かせる好例と言えるでしょう。
参考記事:キャロウェイ エリート トリプル ダイヤモンドは最強か?性能と適性を徹底分析する
結論:ツアーAD PTが合う人の最終回答
これまでの詳細な分析を基に、「ツアーAD PT 合う人」に対する最終的な答えをまとめます。このシャフトは、決して「勝手にボールを飛ばしてくれる魔法の杖」ではありません。しかし、あなたのスイングを嘘偽りなく鏡のように映し出し、対話しながら成長させてくれる、これ以上ない最高のパートナーになり得ます。






