会社のコンペや友人同士のゴルフコンペで「今回のルールはダブルペリアの上限なしです」と案内されて、一体どんなスコアが出れば優勝できるのか、どうすれば上位に行けるのか気になっている方は多いのではないでしょうか。いわゆる「青天井」と呼ばれるこの方式は、一般的には「運の要素が非常に強い」と言われていますが、実はその計算の仕組みや確率論的な背景を知っているだけで、当日の戦略やゴルフそのものの楽しみ方が劇的に変わります。
私自身もゴルフを始めたばかりの頃、100はおろか120も切れなかった時期に、この「上限なし」ルールのおかげでベスグロのシングルプレイヤーを抑えて優勝し、豪華賞品(その時は松阪牛でした!)を手にして驚いた経験があります。なぜそんなことが起きるのか? どうすればその確率を高められるのか? 今回は、19番ホール研究所の運営者である私が、この独特なルールの数理的な面白さと、実戦で使える攻略のポイントについて、自身の経験を交えながら徹底的に解説していきます。
- 上限なし(青天井)ルールの具体的な計算メカニズムと係数の意味
- 通常ルールと比べて初心者が圧倒的に優勝しやすい数学的理由
- 確率論に基づいた「攻めるべきホール」と「守るべきホール」の選別
- 幹事が知っておくべき、コンペを盛り上げつつトラブルを回避する運営術
ダブルペリアの上限なしで優勝するための基礎知識
まずは、「上限なし」というルールが通常のダブルペリアとどう違うのか、その仕組みを数式レベルからしっかりと理解しておきましょう。「なんとなく運任せ」で挑むのと、「仕組みを知って狙う」のとでは、ラウンド中のメンタル持ちや一打への集中力が大きく変わってきます。
複雑な計算式とハンディキャップの算出方法

ダブルペリア方式(別名:新ペリア方式)の計算式は、一見すると非常に複雑で取っつきにくい印象を与えますが、そのロジックを分解してみると、実は非常に理にかなった統計的なアプローチが取られていることが分かります。まずは基本となる計算式を見てみましょう。
この計算式は、一体何をしようとしているのでしょうか? 順を追って深掘りしていきましょう。
まず、「隠しホール12カ所」という部分です。18ホール中の12ホール、つまり全体の3分の2をサンプリング(抽出)して、その日のプレイヤーの調子を測ろうとしています。昔の「ペリア方式(旧ペリア)」では隠しホールが6カ所しかなかったため、運の要素が強すぎたのですが、倍の12カ所にすることでデータの信頼性を高めているわけです。
次に「× 1.5」の意味です。これは抽出した12ホール分のスコアを、18ホール分に換算(拡張)するための係数です。12に1.5を掛けると18になりますよね。つまり、「隠しホールの調子が18ホールずっと続いたと仮定した場合の推計スコア」を算出しているのです。
そして「- 72」で、コースの基準打数(パー72)を引き算します。これにより、基準よりどれだけ多く叩いたかという「オーバーパー」の数値を導き出します。
最後に最も重要なのが「× 0.8」という係数です。これは「算出されたオーバーパー分の80%だけをハンディキャップとして認めてあげましょう」という意味です。逆に言えば、残りの20%は「実力不足」として、そのままスコアに残るように設計されています。もしこの係数が「1.0」だったらどうなると思いますか? 全員のネットスコアが理論上72に収束してしまい、完全にジャンケン大会のような運ゲーになってしまいます。「0.8」という数字は、運と実力のバランスを保つための、先人たちが導き出した黄金比なのです。
トリプルボギーカットやダブルパーとの違い

「ダブルペリア 上限なし」というキーワードで検索される際、最も重要なのが「カット機能(打ち止めリミッター)」の有無です。ここが、ただのスポーツとしてのゴルフと、エンターテインメントとしてのコンペを分ける境界線になります。
通常のコンペでは、ハンディキャップが異常な数値にならないよう、また実力者が極端に不利にならないよう、厳格なリミッター(制限)が設けられています。代表的なのが「ダブルパーカット」と「ハンディキャップ上限(HDCPカット)」です。
| 項目 | 通常ルール(ダブルパーカット) | 上限なし(青天井) |
|---|---|---|
| ホールの打数制限 | ダブルパーまで(Par4なら8打まで) | 制限なし(何打叩いてもOK) |
| ハンデ上限 | 36や40まで | 制限なし(50でも100でもOK) |
| 影響度 | 大叩きは損になることが多い | 大叩きがハンデの源泉になる |
具体的にイメージしてみましょう。あるPar4のホールで、ティーショットがOB、打ち直しも林の中、脱出に手間取り、バンカーでもミスをして、結果的に「15打」叩いてしまったとします。
【通常ルール(ダブルパーカット)の場合】
どんなに叩いても、計算上はダブルパーである「8」として扱われます。実際のスコアは「15」でカウントされるのに、ハンディキャップの計算では「8」分の恩恵しか受けられません。つまり、差分の「7打」は完全に救済されず、ネットスコアを悪化させるだけの「死に打」となってしまいます。これでは優勝は絶望的です。
【上限なし(青天井)の場合】
ここからが魔法の時間です。「15打」という数字が、そのまま計算式に放り込まれます。もしこのホールが隠しホールに選ばれていれば、叩いた分だけ莫大なハンディキャップが生成されます。大失敗したはずのホールが、実は優勝を手繰り寄せる「ビッグイニング」に化けるのです。
このように、「上限なし」とは、ゴルフというスポーツにおいて本来忌避すべき「ミス」を、「ハンディキャップという資産」に変換してくれる、弱者に優しい(そして時に残酷な)システムなのです。
隠しホールになる確率が高い場所と配置

ダブルペリアでは、18ホール中12ホールが「隠しホール」として選ばれます。多くのゴルファーは「どこが隠しホールになるかは神のみぞ知る」と考えていますが、実はこれ、コースや集計システムによってある程度の「定石」や「法則性」が存在することをご存知でしょうか。
一般的に、隠しホールの合計パー数は「48」になるように設定されるのが標準的です。これは、18ホールのパー72の3分の2にあたる数字です。この「パー48」を作るための構成として、最もポピュラーなのが以下のパターンです。
- OUTコース(9ホール中6ホール):Par4が4つ、Par3が1つ、Par5が1つ(合計パー24)
- INコース(9ホール中6ホール):Par4が4つ、Par3が1つ、Par5が1つ(合計パー24)
この構成比率を見て、何か気づくことはありませんか? そうです、「ミドルホール(Par4)が選ばれる確率が圧倒的に高い」のです。
この「80%」と「50%」の差は、戦略を立てる上で決定的な意味を持ちます。Par4で叩いたスコアは、高い確率でハンディキャップに変換され、救済される可能性が高いということです。逆に、Par3やPar5は半分の確率で「隠しホールではない(=ただスコアが悪くなるだけ)」というリスクを孕んでいます。
もちろん、最近ではコンピュータによる完全ランダム抽選(例えばPar5が全部隠しホールになる等)を採用しているコンペもありますが、基本プログラムとしてこの「4-1-1構成」を採用している集計ソフトは依然として多いです。この確率の偏りを知っているだけで、「ここは攻めるべきか、守るべきか」の判断基準が明確になるはずです。
青天井ならネットスコアで大逆転が可能

上限なしルールにおいて発生する最も興味深く、かつ直感に反する現象。それが「隠しホールであれば、叩けば叩くほどネットスコアが良くなる」というパラドックスです。これを数学的に証明してみましょう。
前提として、隠しホールで1打余分に叩いた(スコアが+1悪くなった)場合を考えます。
ハンディキャップの計算式は `(スコア × 1.5 – 72) × 0.8` でしたね。この式の `スコア` の部分が `+1` 増えるとどうなるか。
数式を展開すると、ハンディキャップの増加分は `1 × 1.5 × 0.8` となります。
これを計算すると… `1.2` です。
つまり、「隠しホールで1打叩くと、ハンディキャップは1.2打増える」のです。
では、最終的なネットスコア(グロススコア - ハンディキャップ)はどう変化するでしょうか。
・グロススコア:+1打(悪化)
・ハンディキャップ:-1.2打(良化)
・差し引き:-0.2打
なんと、1打ミスをするたびに、ネットスコアは「0.2打」ずつ良くなっていくのです! これが、上限なしコンペにおける「0.2打の魔法」と呼ばれる現象です。
もしPar4で「10打オーバー(スコア14)」という大惨事を起こしたとしましょう。
グロスは+10打増えますが、ハンデは `10 × 1.5 × 0.8 = 12` 増えます。
結果、ネットスコアは `10 - 12 = -2` となり、普通にパーを取るよりも、ネットスコア上は2打も有利になるのです。
これが「上限なし」の正体です。通常のゴルフでは「1打の重み」に苦しみますが、このルール下では「1打のミスが0.2打の利益」に変わる。だからこそ、大叩きしても絶対に腐ってはいけません。そのホールのスコアカードに書かれた「14」や「15」という数字は、恥ずべき記録ではなく、優勝へと導くプラチナチケットかもしれないのです。
シミュレーションで見る驚愕の優勝スコア

理論上の話だけではイメージしづらいかもしれませんので、実際のコンペでよく見かける具体的なスコアカードを用いて、どれほどの逆転劇が起こり得るのかをシミュレーションしてみましょう。ここでは、堅実なプレーをした上級者のAさんと、トラブルに見舞われた初心者のBさんを比較します。
| 項目 | Aさん(上級者) | Bさん(初心者) |
|---|---|---|
| グロススコア | 78(39・39) | 120(60・60) |
| 隠しホールの合計 | 54(パープレーペース) | 96(大叩きが全部ハマった) |
| ハンディキャップ算出 | (54×1.5-72)×0.8 = 7.2 | (96×1.5-72)×0.8 = 57.6 |
| ネットスコア | 78 – 7.2 = 70.8 | 120 – 57.6 = 62.4 |
| 順位 | 2位〜5位 | ぶっちぎりの優勝 |
いかがでしょうか。グロススコアで「42打」もの大差をつけて勝ったはずのAさんが、ネットスコアではBさんに「8.4打」もの大差をつけられて負けてしまうのです。ネットスコア「62.4」というのは、通常のストロークプレーではまず出ない驚異的な数字です。
Bさんの勝因は、単にスコアが悪かったからではありません。「大叩きしたホールが、運良くすべて隠しホールに選ばれた」こと、そして「上限なしルールによって、57.6という巨大なハンデがフルに適用された」ことにあります。
このように、上限なしコンペでは、グロス100、110、あるいは120台のプレイヤーが、ネットスコア60台を叩き出して優勝をさらうことが頻繁に起きます。これは「上手い人が損をする」という見方もできますが、見方を変えれば「初心者でも、今日初めてコースに出た人でも、主役になれるチャンスがある」という、夢のあるルールだと言えるでしょう。
ダブルペリアの上限なし攻略法と幹事の運営術
仕組みと爆発力が分かったところで、次は実践編です。プレイヤーとして参加する場合の「確率論に基づいた攻め方」と、もしあなたが幹事を任された場合の「不公平感を減らす運営法」について、より深く掘り下げて解説します。
ミドルホールで大叩きする戦略の有効性

プレイヤーとして「上限なしコンペ」に参加する場合、最も合理的かつアグレッシブな戦略は「Par4(ミドルホール)では、リスクを恐れずに徹底的に攻める」ことです。これは精神論ではなく、前述した「隠しホール確率80%」に基づく冷徹な計算です。
例えば、池越えのセカンドショットや、OB杭が浅いドッグレッグのホール。通常のラウンドなら、刻んでボギーやダブルボギーを狙うのがセオリーでしょう。しかし、上限なしルールでは、中途半端な「ダブルボギー」はあまり美味しくありません。なぜなら、ダブルボギー(+2打)でもらえるハンデは2.4打。ネットスコアの短縮効果はわずか「-0.4打」だからです。
それならば、果敢にピンを狙ってみましょう。もし成功すればバーディやパーが取れてグロスが良くなります。そして、もし失敗して池に入れたりOBになったりして、結果的に「+5打」や「+10打」になったとしても、それが隠しホールであれば、先ほどの「0.2打の魔法」が発動し、ネットスコアを大幅に縮めてくれます。
つまり、ミドルホールにおいては「成功すればグロス良し、大失敗してもハンデ良し」という、二重のメリット(セーフティネット)が存在するのです。一番もったいないのは、隠しホールになる可能性が高いミドルホールで、ビビって小さくまとまり、特徴のないスコアで終わることです。私の経験上、上限なしコンペで上位に来る人は、どこかのホールで必ず派手な「祭り(大叩き)」をやらかしています。
ショートホールでのミスは致命傷になる
攻めるべきミドルホールとは対照的に、絶対に警戒レベルを上げなければならないのが、Par3(ショートホール)とPar5(ロングホール)です。これらのホールは、隠しホールから外れる確率が50%もあります。2回に1回は、ハンディキャップ計算の対象外になるのです。
もし、隠しホールではないPar3で、ティーショットを池に入れて「7」や「8」を叩いてしまったらどうなるでしょうか? この大叩きはハンデ計算には一切考慮されず、ただ単にグロススコアに「+4」「+5」が加算されるだけの、正真正銘の致命傷になります。
したがって、ショートホールとロングホールでは、徹底した「守りのゴルフ」に徹するべきです。ピンが難しい位置にあっても無視してグリーンセンターを狙う、Par5では2オンを狙わず確実に3オンさせる、ハザード(池やバンカー)は徹底して避ける。ここでは「ボギーで御の字」「ダボでもOK」という気持ちで、大怪我だけを防ぐマネジメントが、トータルのネットスコアを安定させる鍵となります。
同ネット時の順位決定は年齢順が一般的

ダブルペリア、特に上限なしルールでは、ネットスコアが同じになることや、異常に低いスコアで並ぶことが頻繁に発生します。「ネット68.4で3人が並んだ」なんてことも珍しくありません。この時、誰を優勝にするかで揉めないために、順位決定ルール(タイブレーカー)の事前確認が必須です。
日本のゴルフコンペ、特に企業のコンペやオープンコンペで最も一般的な優先順位は以下の通りです。
- ハンディキャップが少ない人(ローハンデ優先)
ネットスコアが同じなら、グロススコアが良い(=ゴルフが上手い)人を上位にするルールです。青天井ルールはただでさえ運要素が強いため、最後の一線で実力者に敬意を表し、全体の納得感を醸成するためによく採用されます。 - 年齢が上の人(年長者優先)
「長幼の序」を重んじる日本独特の文化です。生年月日を入力しておき、同スコアなら年配の方を上位にします。これは「敬老」の意味合いも含め、角が立たない解決策として非常にポピュラーです。 - 女性優先
女性参加者が少ないコンペで、華を添えてくれたことへの感謝として採用されることがあります。 - カウントバック
INコースの18番ホールから遡ってスコアが良い順に決める方式です。
もしあなたが幹事なら、「同ネット時は年長者上位とします」と朝の開会式でアナウンスしておくだけで、表彰式での混乱を未然に防ぐことができます。逆に、これを決めておかないと、「俺の方がハンデが少ないのに!」といった不満が出かねませんので注意が必要です。
便利な計算アプリを活用してミスを防ぐ
コンペの集計は、かつてはスコアカードを回収して、ゴルフ場のスタッフや幹事が電卓を叩いて計算していました。しかし、上限なしの計算や順位決定は複雑で、手計算ではミスが起きやすく、時間もかかります。
現在では、多くのゴルフ場でカートナビに「リーダーズボード機能」が搭載されており、リアルタイムで順位が変動する様子を楽しめるようになっています。しかし、ダブルペリアの隠しホール計算だけは、全員がホールアウトして集計確定するまで開示されない設定になっていることがほとんどです(途中で分かってしまうと、意図的な調整ができてしまうため)。
もしプライベートなコンペや、ゴルフ場の集計システムを使わない場合、個人で楽しみたい場合は、スマートフォンのスコア管理アプリを活用するのが賢明です。「楽天GORA」や「GDO」などの主要アプリには、コンペの集計機能や、新ペリア計算のシミュレーション機能がついているものがあります。また、最近ではApple Watchなどのウェアラブルデバイスを使って、よりスマートにスコアを入力・管理することも可能です。
アプリを使えば、「もしここが隠しホールなら…」といった皮算用を自動でやってくれますし、コンペ終了後のパーティまでの待ち時間に、自分たちでスマホを見ながら「幻の優勝者」を予想して盛り上がることもできます。デジタルツールをうまく活用して、煩わしい計算から解放されましょう。
もし、Apple Watchを使ったスマートなゴルフライフや、具体的なアプリの活用術に興味がある方は、アップルウォッチゴルフ完全攻略!おすすめアプリと設定術の記事も参考にしてみてください。手元の時計だけで残り距離を知り、スコアを入力する快適さは、一度味わうと戻れません。
ダブルペリアの上限なしでコンペを楽しむ
ここまで、数式や確率論、戦略について長々と解説してきましたが、ダブルペリアの上限なし(青天井)ルールの本当の価値は、スコアや順位だけではありません。その本質は、「参加者全員が、最後のパットを沈める瞬間までワクワクできる」というエンターテインメント性にあります。
通常のストロークプレーでは、前半で大叩きをしてしまうと、後半は「消化試合」になりがちです。「もう優勝はないな」と諦め、モチベーションが下がってしまうこともあるでしょう。しかし、上限なしルールなら違います。
「前半で55も叩いちゃったけど、これが全部隠しホールにハマれば…!」
「あのバンカー地獄の『12点』が、奇跡を起こすかもしれない!」
そんな「淡い期待」や「妄想」を抱きながら、最後まで笑顔でプレーできる。下手な人ほど夢が見られる。そして、表彰式で自分の名前が呼ばれた時の、あの会場がどよめく瞬間。これこそが、日本が生んだこの変則ルールの最大の魅力だと私は思います。
次回のコンペで「上限なし」という言葉を聞いたら、ぜひニヤリとしてください。それは、あなたに優勝のチャンスが巡ってきた合図かもしれません。ミドルホールでは果敢に攻め、ショートでは慎重に守り、そして何より、どんなに叩いても腐らずに、その数字を「宝くじ」だと思って楽しんでくださいね。




